歯科医が教える「インプラント治療に向かない人・できない人」

歯科医が教える「インプラント治療に向かない人・できない人」

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鈴木志帆美先生
鈴木 志帆美 先生
専門:小児歯科・歯内療法
2015年 神奈川歯科大学卒業

インプラント治療は、失った歯の部分を再び自分の歯と遜色なく使えるようになる治療法です。しかし、誰にでもできるというわけではありません。インプラント治療に向かない人や、そもそもできない人も中にはいます。インプラントを検討されている人に向けて、ここではインプラントに向かない人やできない人の具体的な情報をお伝えします。

インプラントに向かない人

インプラントに向かない人は、以下のような人です。

    • 顎骨が薄い人
    • 骨が弱い人
    • 重度の歯周病の人
    • 口腔衛生状態が悪い人
    • 歯ぎしりや食いしばりの強い癖がある人
    • 重度の全身疾患がある人
    • 薬物・アルコール依存症の人
    • ヘビースモーカーの人
    • 子ども・妊婦
    • 定期メンテナンスに通えない人

極端に骨が薄い人や弱い人は、インプラントを埋め込む土台が不安定になるため適していません。ただし、骨質はしっかりしていて骨の量が足らない場合は、造骨手術をしてインプラントを埋めることが可能です。

インプラントの造骨手術の種類や流れ、痛みや腫れについて詳しく解説

また、既存の歯が重度の歯周病の人や全身疾患がある人は、病気や薬が骨や血液に影響を与えるため、インプラント治療には向いていません。飲酒・喫煙を頻繁にする人は、歯ぐきに炎症が起きやすい・血行障害になりやすいなどの理由から難しいです。妊娠中はデリケートになるため、外科手術を伴うインプラント治療はおすすめできません(医師や産婦人科との連携で行える場合もあります)

インプラント治療は手術の後にも定期メンテナンスに通うことが必須ですが、何らかの理由で通えないと分かっている人も向いていません。ただし、転居の予定がある人については、事前に医師に相談すれば、同じメーカーを取り扱う転居先の医師を紹介して貰える場合があります。

インプラントに適応する骨の3つの条件

インプラントに適応する骨の条件は、骨密度がしっかりとあること、深さがあること、厚みがあることの3つです。

インプラントは、顎骨に天然歯の根っこの代わりとなる、ある程度の長さの本体を直接埋入して固定し、その上に人工歯を取り付けるものです。そのため取り付ける側の顎骨の深さがある程度確保されないと、埋入することができません。また、厚みも重要です。顎骨が薄ければ、インプラント本体がはみ出してむき出しとなってしまい、不安定になるだけでなく審美的にも問題が残ります。骨密度については、骨粗鬆症の項目で詳しく説明します。

インプラントの適応年齢

インプラント治療は、成長期の人には向きません。成長期にある人は、骨が成長して大きくなるため、顎骨も成長とともに変化するからです。もし成長途中でインプラントを入れると、後から他の歯と噛み合わせが合わなくなります。噛み合わせが合わないと、インプラントに余計な力が加わって負担となり、人工歯の欠損などの恐れがあります。

一般的には顎の成長が止まった16歳〜20歳以上から70代くらいまでの人が、適応年齢と言われています。ただし、インプラント治療ができるかどうかは、年齢だけでなく骨の状態や全身の病歴、体質などによって判断するため、事前に詳細な問診や検査が必要とされます。

インプラントに向かない生活習慣

インプラントに向かない生活習慣とは、歯磨き習慣がない、喫煙・飲酒を頻繁にする、歯ぎしりや食いしばりの癖などです。

インプラントはインプラント周囲炎という病気になりやすく、それを防ぐには歯磨きが欠かせません。口内にはたくさんの菌が存在していますが、口内にわずかな食べカスがあると、細菌がプラーク(歯垢)を生み出します。プラークは細菌の巣窟となり、インプラント周辺の歯ぐきに炎症を起こしてしまうのです。また、 既存の歯も虫歯や歯周病 になりやすくなります。

インプラント周囲炎は通常の歯周病よりも進行が早く、一度かかってしまうと治療するのが困難です。インプラントと骨の間に細菌が入り、骨がどんどん痩せてインプラントを支える土台がなくなります。最悪の場合はインプラントが抜け落ちてしまう可能性もあります。インプラントのトラブルでインプラントがある日突然抜けたという人の多くは、インプラント周囲炎が原因ともいわれています。口内に虫歯や歯周病がある場合もインプラント周囲炎にかかりやすいため、口内を常に清潔に保つことが重要です。定期メンテナンスではクリーニングをしてくれますが、それは数ヶ月に一度のこと。プラークを作らないようにするには、毎日の食後や就寝前の歯磨きが必要なのです。

また、タバコに関しては、タバコに含まれるニコチンなどの成分が血行を悪くし、インプラント治療後の骨とインプラントの結合がなかなかできません。治療に造骨手術が伴う場合はなおさら影響が出ます。治療後もインプラントの寿命が短くなるため、中にはインプラント治療を機に禁煙を行わせる歯科医もいるほどです。

アルコールは利尿作用があり、体内の水分を奪います。唾液には口内の細菌に対する殺菌・抗菌成分が含まれており、唾液量が少ないと唾液の作用が働かきにくくなります。アルコールを頻繁に飲むと口の中が乾くため、口内細菌が増殖しやすくなるのです。これは、口呼吸の癖がある人も同様です。

歯ぎしりや食いしばりの癖がある人も、インプラントには向いていません。インプラントの上部には人工歯を装着しますが、歯ぎしりや食いしばりのときにかかる力はとても強く、人工歯が欠損しやすくなるからです。歯ぎしりや食いしばりがある人は、インプラントの治療後に、歯ぎしりなどを改善するナイトガードも一緒に作成するケースが多いです。

インプラントができない病気の人

インプラントが向かない人の中に重度の全身疾患を挙げましたが、ここでは具体的なインプラントができない病気についてお話します。

骨粗鬆症の人

骨粗鬆症で骨密度が極端に低い人は、インプラントを支える顎骨の骨の量が足りません。また、骨粗鬆症の治療中や、過去に治療していた人も注意が必要です。骨粗鬆症の治療薬で「ビスホスホネート系」の薬を服用あるいは注射をしている(していた)場合、インプラントの手術や抜歯をすると、顎骨が壊死する恐れがあります。

ただし、骨粗鬆症でも、薬の種類や投与していた期間によっては、インプラント治療が可能な場合もあります。インプラント治療を希望する際には、骨粗鬆症の主治医及び歯科医に相談しましょう。

糖尿病の人

糖尿病で血糖値のコントロールがうまくいっていない人は、インプラント治療の際に傷の治りが悪くなる、免疫力の低下で細菌感染する、治療中に血糖値が不安定になるなどのリスクが高くなります。また、骨との結合もしにくくなります。

ただ、すべての糖尿病の人が必ず治療できないということではありません。血糖値のコントロールがうまくいっていれば、インプラント治療をすることが可能です。この場合は医師とよく相談し、慎重に進めていきます。治療後も、定期メンテナンスの間隔を狭める・セルフメンテナンスの徹底などが必要です。

高血圧の人

高血圧の人は、アドレナリン含有局所麻酔薬を使用する際には血圧によって使用量の制限があるため、注意が必要です。高血圧の人に対しては、多量の局所麻酔薬を用いるインプラントの手術ができないことがあります。あるいは、アドレナリン無添加麻酔薬への変更などの対応をする場合があります。

また、高血圧であるにもかかわらず正しく薬を服用していない人は、治療中に脳出血などの合併症を起こす危険があるため、インプラント治療はできません。

心臓病の人

心臓弁膜症で人工弁置換手術を受けた人や、体内に入れるタイプのペースメーカーを使用している人は、感染性心内膜炎のリスクが高いため、インプラント治療はおすすめできません。また、日頃から息が続かず階段を昇れない、常に足のむくみがある、仰向けになると息苦しいなどの心不全がある人も、避けたほうが良いでしょう。

ただし、心筋梗塞や狭心症の人は、手術後の経過年数発作の回数によってはインプラント治療を受けられる場合があります。主治医とよく相談しましょう。

肝臓病の人

肝硬変急性肝炎、重度の肝臓病がある人は、肝機能障害により手術中に出血が止まらなくなる恐れがあります。また、手術後に投与される薬がうまく代謝されない、薬によって肝機能が低下するなどのリスクもあるため、インプラント治療は難しいでしょう。

腎臓病の人

人工透析を受けている人や重度の腎臓病がある人は、インプラント治療は危険です。腎臓病にかかると免疫力が低下して細菌感染の恐れがあります。外科手術中にも出血が止まりにくくなる他、傷の治りも遅いでしょう。また、腎臓病にかかると骨がもろくなりやすいので、顎骨とインプラントが結合しない可能性も高いです。

がん治療中の人

がん治療で放射線治療をしている人、または過去に治療した経験がある人は、炎症が起こりやすく唾液量も少なくなるというリスクがあります。特に顎骨に放射線治療を受けている人は、インプラント治療は行なえません。麻酔による骨髄炎を引き起こす可能性もあります。

また、骨転移の可能性がある場合は、ビスホスホネート系の薬が用いられます。ビスホスホネート系の薬は骨や歯の手術と相性がよくないため、インプラント治療は難しいでしょう。

インプラントに向くのはこんな人

今までインプラントに向かない人やできない人について説明してきましたが、上記のような要素がなくインプラント治療に向いているのは以下のような人です。

    • 顎の骨がしっかりしている
    • ブリッジで歯を削りたくない
    • 入れ歯を使うのは嫌
    • なんでも噛んで美味しく食事がしたい
    • 味覚が必要な職業だ
    • 既存の健康な歯を長く残したい
    • 審美性を気にする
    • アスリートなど歯を食いしばる職業だ
    • 几帳面である

インプラントに向かない人・できない人のまとめ

インプラントは既存の歯の寿命を縮めず、入れ歯やブリッジに比べると噛む力見た目天然歯と変わりません。定期メンテナンスとセルフメンテナンスさえ怠らなければ、何十年も快適に使うことができます。

今回はインプラントに向かない人やできない人についてご紹介してきましたが、ここに書いてあるからと自己判断で諦めるのではなく、一度病院に相談することをおすすめします。多数の症例がある大学病院や公的医療機関などに相談すると、治療ができる可能性があります。その場合には医師から説明をよく聞き、約束事などをきちんと守って治療に臨みましょう。

writer
角舘 有理
角舘 有理
セールスライター、コピーライターに師事後、フリーランスとして独立。Webライターの傍らブックライターとしても活動中。歯科関連の記事は約2年間担当した経験があり、現在も新しい予防法に興味津々。自著に「無理に学校に行かせなくていい」がある。