矯正治療の「便宜抜歯」とは? 虫歯や歯周病の抜歯との違いは?

便宜抜歯とは、歯医者さんの専門用語で「抜歯」の一種です。聞きなれない言葉だけに、普通の抜歯とは、どう違うのか心配になる人もいるかもしれませんね。
ここでは「便宜抜歯」とは何なのか、普通の抜歯とは異なる点があるのかについて解説します。
- 歯医者さんで「便宜抜歯」という言葉を初めて聞いたので意味を知りたい。
- なぜ、矯正治療に「便宜抜歯」が必要なのか知りたい。
- 歯並びをキレイにしたいけれど、歯を抜きたくなくて悩んでいる。
- どんなケースで「便宜抜歯」が必要になるのか知りたい。
便宜抜歯が必要な理由とは?

先生、「便宜抜歯」って何ですか?普通の抜歯とは違うの…?

「便宜抜歯」というのは、歯列全体を健全な状態に保つため、悪くなっていない歯をやむを得ず抜くことです。
あっ、矯正する時に健康な歯を抜くことがありますねー。あれですか?

その通りです。最近では「必要抜歯」とも言われていますよ。
ああー、必要に応じて抜くんですものね。先生、その方が解りやすいです!
便宜という言葉には「都合がよいこと」という意味があるので、つまりは「適切な処置を行う」という意味ですが、言葉の響きでむやみやたらに歯並びをよくするために抜くような印象が否めないため、近ごろでは「必要抜歯」といわれる傾向があります。
便宜抜歯を行うことになるケース
先生、「便宜抜歯」を行うことになるのは、どんなときですか?

患者さんのご希望や歯科医師の治療方針によっても「便宜抜歯」を行うかどうか異なりますが、「便宜抜歯」になりやすいケースを紹介します。
①歯のデコボコが大きい

歯並びのアーチ型のラインに歯は収まり切れないため、そこからはみ出してデコボコになっているわけです。歯がきれいに並ぶためのスペースをつくるために、「便宜抜歯」が必要になります。
②上下の噛み合わせのズレが大きい

大きく歯を移動する必要がありますので、「便宜抜歯」を行えば外科手術をせずに矯正できるケースがあります。
③前歯が出ていて、口を閉じにくい

口元を引っ込めてフェイスラインを整えるためには、「便宜抜歯」が必要になるケースが多いといえます。
便宜抜歯で抜く歯は?

先生、「便宜抜歯」で抜く歯って、どの歯か決まってるんですか?

「便宜抜歯」では、主に小臼歯ですね。虫歯になっている歯など、優先順位が低い歯を抜くこともあります。
おぉ!それだと健康な歯を抜かないといけないっていう罪悪感が少し和らぎますね~!
小臼歯
矯正治療で「便宜抜歯」が行われるのは、前歯から数えて4~5番目に生えている小臼歯が多いです。この歯が、上下の歯の噛み合わせには最も影響がない歯だとされていることから、選ばれることが多くなっています。優先順位の低い歯
虫歯の治療を行って神経を抜いた歯や、金属の歯科素材を被せた銀歯などがあれば、その歯を保存の優先順位が低いとみなして抜歯することもあります。ただし、歯を動かしたい状況にもよります。銀歯は、経年劣化のため金属アレルギーをはじめとする身体の不調の原因になると問題視されることがあり、銀歯を外して白い歯に替える治療を受ける人が増えています。そうした傾向から、優先順位が低い歯と考えられることが多いのです。
「できれば抜歯したくない!」という時は?

先生、あまり抜歯したくないな…と思ってしまうんですけど、抜歯せずに矯正することって、できないんですか?

歯科医師としても、できれば健康な歯は抜きたくないんですよ…。
やっぱり!?どうにかならないんでしょうか~?

非抜歯でできる矯正もあります。ごく限られた矯正に限られますが。
えっ、ごく限られたというと?

非抜歯でも矯正できるのは、以下のようなケースですね。
- 歯がキレイに並ぶスペースが十分にあり、歯並びの乱れを少し治せばいいケース。
- 成長期に行う矯正のため、顎が正しい大きさに成長するよう促すことで抜歯しなくて済むケース。
- ヘッドギアやインプラントアンカーなど特殊な矯正装置を使って、歯を奥に動かす矯正を行うケース。
なるほど~、結構、当てはまるケースが絞られますねー!

歯科医師としては当然、健康な歯を抜きたくない気持ちは強いのですが…。残したまま矯正すると、良くない結果につながりやすいのです。
あー!確かに何回も矯正のやり直しになると嫌ですもんね~。歯医者さんが「便宜抜歯」をするのには、ちゃんと理由があったんですねー。
歯科医師は正常な歯は抜きたくないと考えるものです。それでも「便宜抜歯」を提案しているのには、理由があります。歯を残して治療を行っても、良い結果につながらない場合です。
「便宜抜歯」の提案があった時は、しっかりと理由を聞いて、納得できるまでドクターと話し合って決断するようにしてください。リスクを承知で、それでも歯を抜きたくない場合は、患者さん本人にとって最善の治療になるよう考慮してくれるでしょう。
便宜抜歯をしたあとの注意点

先生、「便宜抜歯」したあと、何か注意することはありますかー?

通常の抜歯と同じように、いくつか注意点がありますのでお伝えしますね。
痛みが出ることがある
個人差はありますが、「便宜抜歯」したあと、翌日くらいまでしばらくは痛みが出ることも。歯を抜いた時に多少の痛みがあるのが想定内のことですが、処方された痛み止めを服用しても痛みが引かないようなら担当医師に相談してください。固い食べ物や刺激物を避ける
「便宜抜歯」したあとは、1時間程度は食事を摂らないようにしてください。その後は、柔らかくて刺激のない食事メニューを選ぶようにしてください。また、「便宜抜歯」を行った方では噛まず、反対側の歯で咀嚼するようにしましょう。
舌や指で触らない
「便宜抜歯」したあとは、お口の中の傷口が気になるかもしれませんが、舌や指で触れないようにしてください。傷口の治癒が遅くなってしまいます。うがいや口をゆすぐときも、強くすると刺激を与えてしまいますので、気を付けてください。傷口が開くと、そこから細菌感染することもありますので、触らないように注意しましょう。
血行を良くする行動は控える
「便宜抜歯」したあとは、激しい運動は控えてください。血流がよくなると、止血しにくくなることがあります。長風呂もリスクがあります。軽い入浴や、汗を流す程度にシャワーを浴びるくらいに留めておきましょう。
飲酒・喫煙も血行を促進しますので、止めておきましょう。
便宜抜歯で理想の歯並びに必要な治療です

先生、「便宜抜歯」は矯正に必要な抜歯なんですねー。

そうですね、「便宜抜歯」は健康な歯を抜くことになります。それも、歯全体が健全に機能するために必要なことと診断された場合です。長期的にみて「患者さんの健康のために良い」という判断の上で行われるんですよ。
理想の歯並びのためには「便宜抜歯」が必要になることもある、ってことですね~!
- 「便宜抜歯」は、歯が正しく並ぶために必要なスペースをつくるために行われる。
- 「便宜抜歯」は、健康な歯を抜くが、歯全体が健全に機能するためには必要なこと。
- 「便宜抜歯」で抜くのは主に小臼歯。場合によっては、虫歯や銀歯を抜くこともある。
- 「便宜抜歯」は普通の抜歯と同様に痛みが出ることもあるので、安静に過ごすこと。