矯正で抜歯しないほうがいい?抜歯が必要な理由と非抜歯矯正のリスク

矯正で抜歯しないほうがいい?抜歯が必要な理由と非抜歯矯正のリスク

この記事の監修医師一覧

杉田大先生
杉田 大 先生
所属:杉田歯科医院(千葉県船橋市)
専門:保存修復
2013年 東京歯科大学卒業。現在は杉田歯科医院での臨床のほか、株式会社DoctorbookでDental事業部のマネージャーを務める。

矯正治療において「なるべく健康な歯を抜きたくない」というのは多くの人が希望するポイントでしょう。抜歯をせずに治療できるならそのほうがいいですが、矯正で歯を抜くことが多いのにはそれなりの理由があるのです。無理に非抜歯で矯正するリスクと併せて解説していきます。

矯正で抜歯が必要と診断されるケースは半数以上

日本人は歯の大きさや本数に比べて顎が小さい

日本人女性の口元

日本人は欧米人に比べて顎が小さい傾向にあります。さらに食生活の変化により噛む回数が少なくなり、日本人の顎は増々細くなっています。基本的に歯の本数は人種によって変わらないので、小さい顎に全ての歯が一列に並びきらず、歯並びが悪くなってしまうことが多いのです。

抜歯をしない矯正=最先端の良い治療ではない

治療技術が発展する中で、歯を抜かない「非抜歯矯正」の割合は日本でも増えてきているのは事実です。一方で、現実的に歯を抜かずに適切な矯正治療を行うのが難しい症例も少なくありません。患者さんが望むからと言って、「絶対に歯を抜かない矯正」が良い治療とは言えないでしょう。

治療としての歯列矯正の最大の目的は「噛み合わせを正しくすること」です。抜歯を無理に避けることで起こるトラブルもありえます。抜歯をするかしないかは矯正専門医にとっても難しい問題ですが、積極的に健康な歯を抜きたいと思う歯科医師はいません。

矯正で抜くのはどの歯?

悩む女性

矯正治療で抜歯するのは「抜いても噛み合わせには影響の少ない歯」です。基本的には、歯を抜くことで空いたスペースを埋めるように前歯を動かしていきます。

前から4番目or5番目の歯

矯正治療でもっとも抜くことが多いのは、一番大きい前歯から数えて4番目か5番目の歯です。それぞれ第一小臼歯、第二小臼歯と呼ばれる歯です。噛み合わせのバランスを考えて上下左右1本ずつ、合計4本抜くケースが多くなっています。

ポイント
「きちんと噛み合っている歯を抜くと不具合が出るのでは?」と心配される方もいるかもしれません。しかし、小臼歯の場合であっても適切な矯正であれば抜歯によって噛む力が衰えることはない、というデータがあります。多くの場合、歯並びが悪いことで生じる噛み合わせの問題のほうが大きいといえるでしょう。

親知らず

親知らずの抜歯

親知らずを抜歯するかどうかは状況によって異なります。親知らずが完全に生えていて噛み合わせにも重要な役割を果たしている場合は基本的に抜く必要はありません。歯を動かすスペースが足りなければ、前述のように小臼歯を抜くことになるでしょう。

親知らずが右上だけ、左下だけなど部分的に生えていて、反対側の歯と噛み合っていない場合は抜歯することで歯を動かすスペースを確保することがあります。また、親知らずが半分だけ顔を出していたり、歯茎に完全に埋まっていたりする場合は抜歯することが多いでしょう。放置しておくと虫歯や歯周病の原因になったり、治療後の後戻りなどトラブルを引き起こす可能性があるからです。

虫歯などで状態が悪くなっている歯

既に虫歯や歯周病などで状態が悪くなっている歯があれば、矯正治療前に抜歯するケースがあります。ただし、ちょうどいい位置にそのような歯が複数本あるのは稀でしょう。歯を動かすスペースが足りない場合は他の健康な歯もあわせて抜歯することが多くなります。抜歯するほどの状態でなくとも、虫歯や歯周病がある場合はきちんと治療しないと矯正治療できない場合があるので注意してください。

抜歯をしないで矯正できるケース

矯正の模型

症例や患者さんの要望によっても異なりますが、一般的に抜歯しなくてもいいケースには一定の基準があります。

歯の重なりや凸凹が少ない軽度な症例

矯正で抜歯が必要になるのは、顎に対して現在ある歯が一列に入りきらない場合です。歯の凸凹がそれほどなく、大きく歯を動かす必要がなければ歯を抜く必要がないことが多いでしょう。若干のスペースを確保するために、噛み合わせに影響の少ない親知らずを抜くことはあります。

MEMO
場合によっては、歯の側面を削って歯の大きさを調整する「ディスキング (ストリッピング)」という方法が採られることもあります。

すきっ歯などの空いたスペースを埋める症例

すきっ歯など元々空いているスペースを埋める場合は基本的に抜歯は不要です。出っ歯や歯の凸凹もあれば歯を抜かなければならない可能性はあります。

小児期から治療を始めて顎の成長を利用する

歯を見せる子ども

歯や顎の大きさは遺伝的に決まってしまう部分が大きいとされています。成長期であれば拡大装置(拡大床)を用いて上顎の歯が並ぶラインを広げることが可能です。まだ永久歯に生え変わる前の6〜10歳の間に矯正を始めれば、抜歯の確率を下げられるのです。

無理な非抜歯矯正によって起こり得る2つのリスク

最近では「抜かない矯正」「非抜歯矯正」をアピールする歯科医院が多く見られます。矯正治療は歯科医師であれば誰でも行えますが、非常に専門性の高い分野です。患者さんのニーズに応えようとするあまり、知識や経験の不足した無理な非抜歯矯正によってトラブルも報告されています。

口元が前に突き出してしまう

スペースが足りていないのに無理に全ての歯を並べようとした結果、口元全体が前に突き出してしまうことがあります。治療直後は問題なくても、後になってだんだんと歯が外側に倒れてきてしまった、というケースも多いようです。

ただ、噛み合わせに問題がなければ必ずしも失敗とは言い切れないこともあります。一般的には鼻の頭と顎を結んだEラインに口元がおさまるのが美しいとされますが、この辺りは好みの問題ともいえるでしょう。

ポイント
欧米では日本よりも抜歯せずに矯正する症例が多い傾向にあります。骨格の違いや治療を始める時期が早めであるといった理由もありますが、立体的な見た目が好まれるからとも言われているのです。

歯茎が下がって歯が長く見える

不適切な非抜歯矯正で無理に歯を並べると歯に負担がかかり、歯茎が下がりやすくなるといわれています。矯正治療には歯の根っこが吸収されて短くなる歯根吸収や、歯茎が下がってしまう歯肉退縮のリスクがあります。これらは、歯を動かす力が強く長くかかる場合に起こりやすくなるのです。

抜歯か非抜歯かではなく信頼できる矯正専門医に相談するのが重要

歯科医師に相談する女性

「健康な歯をなるべく抜歯したくない」という考えは歯科医師も同じです。重度の虫歯や歯周病を原因とした場合と違い、適切な診断をもとにした矯正では抜歯をしないデメリットが生じる可能性もあることは認識しておきましょう。

一方で、技術や装置の発達により、以前は抜歯するしかなかったような症例でも非抜歯で治療できるケースも増えてきています。矯正治療は専門性の高い治療です。知識・経験豊富で信頼できる歯科医師に相談して、自分の納得のいく治療を受けましょう。