【基礎知識編】なぜ抜歯するの?抜歯しない治療法もあるって本当?

「抜歯したくない」と思っていても、歯の治療を受けると、どうしても抜歯に至ることがあります。
治療に必要だと聞いても納得できない…そんな人のために、歯の治療で抜歯をするのはなぜか、その理由について解説します。
また、保険診療では抜歯せざるを得ないケースでも、自費診療なら歯の保存を目指せるケースもあります。
抜歯を免れる可能性がある治療についても紹介します。
- 虫歯があるけれど、抜歯したくないので歯医者に行きたくない。
- 歯周病で抜歯になると診断されたけれど、避ける方法はある?
- 保険適用外の自費診療なら抜歯せずに済むと聞いた。どういうこと?
- 歯の治療で、なぜ抜歯に至るのか、回避できないのか知りたい。
- 抜歯したくない。自費診療になっても歯を残す治療法を知りたい。
歯を抜きたくない!なぜ抜歯するの?

歯を治療するとき、抜歯することがあるじゃないですか。あれって、どうしても抜かなくちゃならないんですか?

歯医者としては、できるだけ歯は抜きたくないのですが、抜歯するほうがお口の健康に良い場合もあるんですよ。
そうなんですか!どういう時、抜歯のほうがいいっていう診断になるんですか?

大きくわけて2ケースあります。その歯の保存が不可能な場合と、抜歯が治療に必要な場合です。これから一つひとつ説明しますね。
はい!お願いします!
虫歯の悪化
重度の歯根膜炎
重度の歯周病
親知らずの不正
乳歯が抜けないのに永久歯が生えてきた(交換期障害)
歯をぶつけた・折れた場合(外傷)
矯正のため(便宜抜歯)
保存が不可能なために抜歯するケース
歯を治療の際、どうしても歯の保存が難しい場合は、抜歯しなければなりません。どのようなケースなのか見ていきましょう。
虫歯の悪化
虫歯が進行し、歯の根まで達している場合、抜歯となることがあります。
重度の虫歯でも、しっかりと根管治療を行えば、歯を抜かずに済むことが多いのですが、難しい治療なので何度か通院する必要があります。
そのため、応急処置で痛みがなくなった時点で、歯科への通院を中断してしまう人がいるのです。
忙しいからといって虫歯の治療を途中で止めると、歯が根っこまで溶け、抜歯を免れないところまで悪化してしまいます。
重度の歯周病
歯周病で歯肉が腫れて歯が浮いたり、グラグラしたりする症状が出ても、きちんと治療を行なえば抜歯には至りません。
ところが歯周病を長く放置していると、周辺組織が溶かされて抜歯を避けられなくなります。
親知らずの不正
前から数えて8番目の、一番後ろの奥歯を「親知らず」といいます。一般的に20歳前後に生えてきます。
その頃には親知らずが生えるためのスペースが残されていないことが多く、斜めに生えてきたり、前の歯の下を押し上げるように生えてきたり、半分埋まったままだったり、不正な生え方になりがちです。
そのため、歯肉との隙間に歯垢が溜まりやすく、細菌の温床になってしまうのです。歯ブラシが届きにくいため、生えてきたと思ったら、すでに虫歯や歯周病が進行していたということも珍しくありません。
また、親知らずは反対側に噛み合う歯がないケースが多いため、そのまま放置していると歯並びにも問題が出る可能性があります。親知らずを抜歯すれば、こうしたトラブルはほぼ解消されます。
乳歯が抜けないのに永久歯が生えてきた(交換期障害)
通常の歯の生えかわりでは、乳歯が自然に抜けて永久歯が生えてきます。
しかし、まれに永久歯が萌出しようとしているのに、乳歯が残ったままになる「交換期障害」が起こります。
放置しておくと、隣の歯が倒れてきて永久歯がますます萌出しにくい状態になりますので、乳歯を抜歯します。
歯をぶつけた・折れた場合(外傷)
事故やけがで抜けた歯・割れた歯をそのままにしておくと、細菌感染のリスクがありますので抜歯します。
歯根がしっかりしていて、部分的に残せそうであれば残し、差し歯などで補修します。
ただし、部分的に歯を残して被せ物を装着する治療を施しても、時間が経つと土台にした歯が割れてしまうことがあります。その時は抜歯に至る可能性が高いでしょう。
治療に必要なため健康な歯を抜くケース
治療に必要なために、健康な歯を抜くケースがあります。
矯正のため(便宜抜歯)
歯並びをキレイに整える矯正治療のために、便宜抜歯といって健康な歯を抜くことがあります。
歯列矯正には、すべての歯をきれいに並べるためのスペースが必要だからです。
状態によっては抜歯せずに矯正することもありますが、無理な非抜歯矯正をすると、歯はキレイに並んでいるのに全体的に口元が前へ突出して見えるようになったり、横顔のラインが崩れたりします。
スペースが歯1本分(約5~7mm)も必要でない場合は、スライス矯正といって歯の両サイドをわずかに削ってスペースをつくりだす方法も選べます。

症状によってはスライス矯正が適用しないケースもありますので、歯科医に確認してくださいね。
どうしても抜歯したくない場合の治療法は?

抜歯する理由がわかりましたー!でも、どうしても抜歯したくない時は、方法はありますかー?

保険診療では抜歯という診断になるケースでも、自費診療に切り替えれば歯を残せるケースもありますよ。
そうなんですねー!知らなかった!教えてほしいです!
虫歯で抜歯したくないとき
虫歯で抜歯したくない場合は、次のような治療法を検討できます。
クラウンレングスニング
ドックベストセメント治療
3MIX法
歯根端切除術
ストリークレーザー処置
レーザーを使うと、なるべく削らない・抜かない、最小限に治療に抑える「MI治療/Minimal Intervention(最小の侵襲)」が可能です。
これまでの重度の虫歯治療は、神経を抜くやり方が主流ですが、MI治療なら可能な限り歯の神経組織を残せます。神経を失った歯は脆くなるため、一度は修復しても再発して抜歯になりやすいという流れでした。
一方、MI治療なら歯の神経や周辺組織へのダメージを最小限に抑えられるため、抜歯せずに保存できる可能性が高いのです。
クラウンレングスニング
歯肉や歯を支える骨を歯周外科手術で少し削り、歯茎を少し下げる治療法です。
それによって、被せ物を作れるようになったり、細菌感染を防げるようになったり、歯を保存する環境づくりが可能になります。
これまで抜歯するしかなかった治療が難しい虫歯でも、クラウンレングスニングを行えば保存可能になります。
ドックベストセメント治療
ドックベストセメント治療は、虫歯をあまり削らず、虫歯菌を無菌化する治療法です。
保険診療の虫歯治療は、虫歯を削って除去する治療法ですが、こちらは歯の保存を目指す治療法です。
虫歯に侵された部分にセメント状の薬剤を施してレジンやセラミックの被せ物でフタをし、虫歯菌を殺菌します。
歯の内部の象牙質の再石灰化を促進、つまり歯の自然治癒力を最大限まで引き出すことによって、虫歯の治療を図ります。
3MIX法
ドックベストセメント治療と似ている抗菌剤による治療法ですが、3MIX法は健康保険が適用します。
保険適用ではないドックベストセメント治療のほうが優れた点が多いといわれていますが、3MIX法でも虫歯菌の無菌化に成功すれば、虫歯の治療が1~2回という短期間で終わります。
ただし、重度の虫歯で歯の崩壊が激しいときは使用できないという欠点があります。
歯根端切除術
虫歯で抜歯に至るときは、歯根の根管治療をしても症状が改善しない場合がほとんどです。
そんなとき、歯根端切除術では抜歯する代わりに、歯の根の一部分だけを取り除くことで症状の改善を図ります。
前歯や小臼歯など、歯根が1つだけの歯に対して行われる治療です。奥歯の治療には向いていません。
外科手術に当たるため、歯科医にも専門的な技術や知識が求められる、難易度の高い治療です。
歯周病で抜歯したくないとき
歯周病で抜歯したくない場合は、次のような治療法を検討できます。
歯周再生治療法
ウィングロック
ウィングロックとは、蝶々の羽根のような形をした、身体に優しいチタン合金製の器具です。
歯周病が進行して歯がグラグラしている時、2本以上の歯を繋いで固定するために使います。
「抜歯しかない」という診断に至った症状でも、ウィングロックで固定して治療を進めると、抜歯を免れられる可能性があります。
歯周再生治療法
歯周再生治療法は、歯周病で溶かされた歯周組織を再生させる治療法です。それによって改善できれば、抜歯せずに済むことがあります。
歯周組織再生治療薬には現状で人気を集めているエムドゲインのほか、保険適用のリグロスという日本製の治療薬もあります。
ほかにも、アメリカで販売されている人口骨と成長因子がセットになったGEM21Sや、GTR(歯周組織再生誘導)法とという手術による歯周組織の再生法もあります。
どの治療法が適しているかは患者さんの歯の状態にもよりますし、歯科医の得意とする治療や方針によっても異なりますので、相談してみましょう。
抜歯しなくても治療できるかもしれない!歯科医に相談を

わぁ、いろんな治療法がありますね!歯科医療の進歩ですね!じゃあ、これからはもう抜歯しなくても済むってことですか!

うーん、歯科医としては、できるだけ歯を残しておきたいと考えますが、必ずしも抜歯しないことがベストとは限りません。
それって、検査・診断を受けて、歯の状態に合った治療法を選ぶことが大切ってことですね!

その通りです。保険適用の治療法を優先するのか、自費診療でもいいから歯を残したいのかによっても治療方針が異なりますので希望を伝えて、歯科医の説明を聞いて決めてくださいね。
保険か自費かの判断も鍵になるんですね!わかりました!
- 歯の治療での抜歯は、保存が不可能な場合と、治療に必要な場合がある。
- 矯正治療での抜歯は、歯を動かすためのスペースが治療に必要だから。
- 健康保険の適用範囲内で虫歯治療すると、抜歯を免れない場合がある。
- どうしても歯を残したい場合は、自費診療なら治療が可能なケースも。
- 抜歯を避けられる可能性はゼロではない。歯科医に希望を伝えてみて。